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最高裁判所第三小法廷 平成3年(オ)82号 判決 1992年12月15日

神奈川県藤沢市下土棚四三〇番地

上告人

舩木元旦

東京都中央区八丁堀一丁目七番二号

(茅場町第二長岡ビル)

上告人

舩木商事有限会社

右代表者代表取締役

舩木清子

神奈川県藤沢市湘南台五丁目三六番地の五

上告人

元旦ビユーテイ工業株式会社

右代表者代表取締役

舩木元旦

右三名訴訟代理人弁護士

早川治子

右輔佐人弁理士

福田賢三

兵庫県尼崎市杭瀬南新町三丁目二番一号

被上告人

大同鋼板株式会社

右代表者代表取締役

國武隼人

右当事者間の東京高等裁判所平成元年(ネ)第三三七一号特許権侵害差止等請求事件について、同裁判所が平成二年九月二五日言い渡した判決に対し、上告人らから全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人早川治子、上告輔佐人福田賢三の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 貞家克己 裁判官 坂上壽夫 裁判官 園部逸夫 裁判官 佐藤庄市郎 裁判官 可部恒雄)

(平成三年(オ)第八二号 上告人 舩木元旦 外二名)

上告代理人早川治子、上告輔佐人福田賢三の上告理由

控訴裁判所は、実用新案法第二六条で準用する特許法第七〇条に違反して、本件考案(二)の構成要件と作用効果に関する認定をし、その結果本件カバーと上告人の本件考案(二)との間の技術的範囲に抵触関係はないとの判断を示したが、これは法の解釈適用を誤った法令違背の判決であり破棄を免れない。

即ち、

一、特許法第七〇条は「特許発明の技術的範囲は願書に添付した明細書の特許請求の節囲の記載に基づいて定められなければならない。」と規定している。

従って、本件カバーが登録実用新案の技術的範囲に属するか否かの判断をなすには、先ず本件考案(二)の実用新案登録請求の範囲に記載された事項を、その記載に従ってその構成内容を検討し、明確にした上で、本件カバーと対比検討し、本件カバーが本件考案(二)と抵触しているか否かを判断しなければならない。

本件考案(二)について、その実用新案登録請求の範囲の記載に万一不明確不明瞭なものがある場合には、考案の詳細な説明や図面の実施例を参考にして技術的範囲の認定をすることができることは言うまでもないが、あくまでも実用新案登録請求の範囲自体だけで技術的範囲を画然と定め難い場合についてのことに限られる。このような例外の場合を除いては、考案の詳細な説明の項に記載されているからという理由で、「範囲」に記載のないものを、あたかも記載があるかのようにしてその技術的範囲を定めることは許されない。

ましてや図面の実施例によって「請求の範囲」を減縮したり拡張したりすることが許されないのは当然である。公報記載の図面の実施例は、その言葉が示すとおり、飽くまでも当該考案の実施の一態様であって技術的範囲の全てを表現したものではないからである。

この点について東京高等裁判所昭和五一年(ネ)第一八一三号事件についての昭和五四年九月二七日判決は明確に判示している。また特許請求の範囲に記載された事項と発明の詳細な説明との記載内容とに矛盾がある場合には特許請求の範囲の記載が優先する旨大阪地方裁判所昭和六〇年(ワ)第三五一五事件についての昭和六一年五月二三日判決も判示している。

また、特許発明の技術的範囲を明細書の実施例の範囲に限定した判断をしてはならないことを明確に示した裁判例も多数存在する。(東京地方裁判所昭和四四年(ワ)第六五二二号、同昭和四五年(ワ)八七六八号、大阪地方裁判所昭和五五年(ワ)第八三〇号など)

さて、本件考案(二)について、その実用新案公報「請求の範囲」の記載をみれば本件考案(二)の技術的範囲は容易に理解できる筈であり、殊更に詳細な説明の項に記載された事項や図面の実施例をもって「請求の範囲」記載のないことを判断することは誤りであるのに、あえて詳細な説明や図面の実施例を取り上げて本件考案(二)の技術的範囲を解釈した。「請求の範囲」に記載のないこと、「請求の範囲」からは、到底認定できない筈のことを認定するという誤りを犯したのである。

二、本件考案(二)と、本件目録に記載されたカバーについての判断の誤りについて。

(一) 控訴裁判所の判決理由第一〇丁裏には、「これらの構成要件はいずれも本件考案(二)の必須要件として記載されたのであり、かつ言判決六六頁一〇行ないし六九頁六行の認定に徴すれば、本件考案(二)の作用効果はすべて構成要件AないしDの構成と相俟って奏されるものであることが明らかである。」と認定した。確かに「請求の範囲」に記載された構成要件が必須要件であること、及びそれらの要件が不離一体となって効果を奏することは言うまでもないところ、同判決は一方で基本となる作用効果と構成要件との関係を取り上げて、あたかも両者の関係から判断した結論の理由であるかのように言う。しかし、判決理由中には、作用効果と構成要件との相関関係を具体的に判事した個所はなく、どのように両者を関連づけたのか全く理解できない。

(二) 本件考案(二)の目的及び作用効果は、

<1> 風雨などにより簡単に外れないこと

<2> 雨水がなるべく連結部内に染み込まないこと

<3> 屋根面などの体裁を損なわないこと

<4> 既設変化による温度差によって面構造材が伸縮しても対処できること

<5> 建築現場で簡単に施工できること等の基本機能を満足させることであり、これらは

(a) カバーと面構造材の密着、すなわち、カバーの折返片で面構造材の端縁表面を押圧支持すること

(b) カバーの折返片で支持部材の左右の狭片を挟持することにより得られる。

「請求の範囲」記載の構成要件をAからIまでの分説のうち、AからDまでを要約すると、

<1> 横葺面構造材の連結部に関するものであること

<2> 連結部は、面構造材と捨板と支持部材と本体カバーにより構成されることが記載されており、

このカバーで、面構造材の端縁表面を押圧支持し折返片で支持部材の挟片を挟持する構成がEからIまでに書かれており、これを要約すると、

<1> 面構造材(端縁の加工の無い)

<2> 延出する左右の狭片を形成した支持部材

<3> 左右の側縁に裏側にほぼ重合するように折り返した折返片を形成した連結用カバー

の三点となる。

ここで、本件の面構造材の連結の理解を助けるために説明すると、本件考案(二)の目的及び効果の<4>から明らかなように、面構造材は捨板と支持部材と連結用カバーに対して固定的な意味での連結関係にない。

なぜなら、面構造材は、本件考案(二)の第4、第5図の左右方向については、熱伸縮による動きが生じるから、支持部材とカバーおよび捨板との間に固定関係があったのでは伸縮に対応ができないからである。

ちなみに、同図面の差込部15には、伸びに対応する空間(符号による表示はされていない)が図示されている。

また、面構造材の押圧支持はカバーの折返片によってなされるのだから、支持部材の差込部に面構造材の端縁を嵌め付けた状態だけでは、押圧支持関係は生まれない。

しかも前述したように面構造材はカバーによる押圧支持が保持されながらも、熱伸縮によって某かの範囲は動ける程度の支持関係が必要であるから、少なくともカバーの厚み分のクリアランス(ゆとり)をもった嵌め付け状熊でなければならないし、またそのようなゆとりをもった状態であることは明らかである。

「支持部材」は、単に左右の狭片により差込部を形成したもので、前記各構成を備えていれば技術的に前述の効果を発揮し得ることは容易に理解でき、判決が言うように支持部材による「施工途上の連結」について「請求の範囲」に記載されていない格別の「連結機能」を認定する必要など全くない。

なぜならば、判決に言う連結機能云々は、本件考案(二)の作用効果には全く関係がないからである。

しかるに、同判決は、構成要件Cにおける連結は「屋根の施工途上の連結」であると認めながら、詳細な説明や図面を安易に粗雑に参酌して、本件考案(二)の技術上の事実を看過し「左右の面構造材の一連の状態を連結と称している」と認定したことは、左右の方向に移動可能な連結であって初めて本件第一考案の作用効果が発揮されるという本来の考案の効果を無視したことによるものであり、実用新案法第二六条・特許法第七〇条の解釈の基本を誤った結果以外の何物でもない。

さらに、同判決は、構成要件Cにおける「連結」が「施工途上の連結」であることを認定しておきながら、面構造材と面構造材とが捨板を介して連ねて単に配置する意味で用いられているものとは解することができないと認定し、その理由として「本願明細書(三)には左右の面構造材を支持部材の左右に設けられる差込部に嵌め付けることにより両面構造材が一連の状態を形成する態様が示されているが、その余の熊様に関する記載はなく、本件考案(二)においては、支持部材と面構造材の関係につき、右のように、支持部材により形成される左右の面構造材の一連の状態を「連結」と称しているのであり、かかる状態が控訴人らが主張するように捨板を介した面構造材を連ねた単なる配置でないことは明らかである」と言う。

支持部材の技術的意義を明確にするには、その構成要件を作用効果との関係でとらえ、支持部材の果たす役割を参酌すれば容易に理解できるにもかかわらず、これをしないで、かえって請求の範囲に記載のないことを認定し、本件考案(二)を限定して解釈したこと、その限定解釈のために、構成要件と作用効果との関連が必要であると言いながら、作用効果を抜きにして判断し、前提と結論の齟齬を招いたことは、特許法第七〇条、実用新案法第二六条に違反すること明白である。このような誤りを犯した結果本件カバーと本件考案(二)との間には、その技術的範囲に抵触関係がないと判断する法令違背の判決をおこなった。

以上のとおりであるから、本件判決の破棄を求める。

以上

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